《幻のシカ》は、幼い頃に「幻のシカ」を目撃したことで人生を狂わされた3兄妹を描いたユーモア系ドラマ。黒沢清、瀬々敬久、石井裕也といった一流監督の元で助監督を務めた菊地健雄が初長篇監督を務め、山奥の村を舞台に家族の愛と葛藤を描く。3人の主人公はそれぞれの運命に立ち向かう姿が、リアリズムとユーモアの両方で見事に表現されている。石井杏奈や寺島しのぶらが織りなす演技は自然であり、撮影は大自然と人間のドラマが調和するように構成されている。物語はコメディタッチながらも切ないタッチが特徴で、観る者を深く感動させる。菊地健雄の初監督作ながら、作りの巧みさと映像の美しさが光る作品。